おもちゃに頼る

先日の金沢訪問で保育とおもちゃということについてまた考える機会となりました。

30年以上のキャリアの後もう退職されている元保育士の方から伺ったこと。「自分の現役の頃はおもちゃを揃えるというのは保育の力量が足りないということを暗に示していた。おもちゃなんかなくても、アイディアと意欲でよい保育ができると思っていた。」ということ。

そして見学させていただいた園でいただいたコラムのコピーより抜粋します。『…ベテラン世代は、一斉保育を養成校で学び、実践してきたので、変えるとなれば大変です。だとしたら、人を変えようとするよりも、先に環境を整えることです。…そこで、先生の経験によって差が出ないように、おもちゃを買い揃えて遊べる環境を用意しました。一年目の先生の保育室でもおもちゃのコーナー保育で子どもはそこそこ遊べます。…キャリアのある先生は力がありますから、環境が整えばすぐにできるようになります。それに子どもが変わっていきますから、その姿も変化への追い風になります。』

おもちゃを揃えるのはお金がかかりますから、少ない予算で質の高い保育を人の力量で補おうとする考えが根強い保育の世界では二重の意味で積極的に入れたいものではないかもしれません。目に見えないものにかけるお金というのはいつでも本当に難しいことです。保育者の賃金が上がらない理由の大きなところを占めるものでもあると思います。良い保育をしたって『売上が上がる』のような目に見える結果は出ませんものね。コラムでは、一年目の先生のお部屋で子どもがそこそこ遊べるという実体験の報告があります。これは事実だと私も体感しています。

洗濯機を使うより一枚一枚手で洗うほうが心がこもっている、掃除機を使うより丁寧に箒で掃く方が掃除の心として正しい、という気持ちと、おもちゃがなくても保育士の心持ちで子どもは充実した時間を過ごせるという思いは少し似ているかもしれません。洗濯機や掃除機を使ったからといってきれいにしたい心は全く変わらないことと同じことが、保育にも言えるのではないかと思います。
保育で子どもをうまくまとめられない時に気持ちが折れてしまいます。それで心持ちが下がるくらいならおもちゃを上手に使っていただきたいなと思います。もっと思うのは、良いおもちゃは補うだけが役割ではなくて、伸ばします。ないよりあった方が良いものです。おもちゃにも人と同等の力があり、それを使いこなすスキルが保育者に求められ、おもちゃを通して保育者自身がスキルアップします。おもちゃは、ただ置いておけば保育になるような簡単なものではありません。子どもを見つめ、子どもを理解し、寄り添う道標になることに気づかれると思います。そこを極めていくと、そこではじめて『おもちゃがなくてもできる』というところに到達するのではないかと思います。良いおもちゃはたくさんあります。いろんなお声をお聞きしながらご紹介していきたいと思います。