森之宮保育園さん見学レポート

大阪市にある森之宮保育園さん見学の機会をいただきました。今年1月に新園舎が完成したそうです。新しい園舎に込められた思いが、子どもたちや先生の様子に現れていることがよくわかりました。

まず入り口で、いい色だな、好きな色だなと思いました。
色のことは、中に入れていただいてからも園舎全体で大切にしておられたことがわかり、帰りにもう一度振り返って、この色がいいなと思ったことを、来たときとは違う感情で受け止めました。

玄関ホール

大きく目を引く装飾。一つ一つの丸がこの園に集うひとりひとりを模していることをイメージされているとのこと。大きいのも小さいのも、あっちが出っ張ったりこっちが引っ込んでいるのも、いろんな人がいて、なんだか調和してひとつの形を作っている。これがエントランスのメインにあることが、どんな自分もここにいていいんだなというメッセージに思えました。

スッキリした玄関には、大人も子どもも気持ちが和む仕掛けがいくつもありました。

階段下の屋根裏のような小部屋。ここで絵本が読めます。お迎えに来た方も立ち寄って一緒に絵本を読んでからお帰りができます。大人の目線には大人におすすめの本も。この小部屋の脇には気持ち良いソファがあります。お家の方にとってはお仕事とお家のちょっとした隙間にある素敵な切り替えの時間になってもらえたら、とのこと。

絵本の小部屋の反対側にあるスヌーズレンのお部屋。こういった環境で落ち着く特性のある人もいます。穏やかな音楽が流れていました。

靴箱の上。こういうスペースって、何でも置いておくのに便利な場所なんですが…こんなにかわいらしくなっている方が誰だって気持ち良いですよね。
誰にとっても心地よいということ、園長先生がとてもこだわっておられることではないかと、何度も感じました。

食事

0歳児さんは、いちばん小さい方でももう離乳食を食べていたので、ここがスタート、原点。まだ自分でおすわりできない方は、保育士さんのお膝に乗せてもらって食べます。向い合せではなく、後ろから。食べさせてもらっているのですが、自然と自分で食べているような位置です。

目の前は、食べることに集中できるように壁です。お部屋の隅っこ。ゆっくりゆったり味わっていました。

自分で座れるようになった0歳児さん、自分で食べようとするようになった0歳児さん、細かい段階ごとに配慮がありました。

浅く座れてサイドのガードもしっかりしている椅子から、深く座れて肘かけがあるもの、深く座れてサイドはないものと、体の発達に合わせて変えていくそうです。

保育士さんの関わり方も発達に合わせて変わっていきます。

この園でのゴール、4、5歳児さんのお食事のこと。

自分のトレイをとり、お茶は自分で入れて、カトラリーも自分が使えるものを選ぶそうです。トレイをササッと運べる5歳児さん、慎重に慎重に、ゆっくり運んでいる4歳児さん、それぞれの姿がありました。

食べたいときを自分で決めていました。まだ遊びが終わらない、朝ごはんが遅くてお腹がすいてない、このお友達と一緒に食べたい、それぞれに事情があって、毎日決まった時間に一斉に食べるルールの中ではタイミングが合わない人もいるかもしれません。自分で決めてよいし、それがきちんと機能していました。同じ保育室に、遊んでいる人、休憩している人、食べている人が一緒にいます。どの人も満たされた時を過ごしているように見えました。

お膝に乗せてもらう0歳児さんから自分で決める5歳児さんに育つまで、時間をかけた保育が丁寧に行われているのをそれぞれの学年で見せていただきました。

用意してもらう食事から、自発的に食べに向かう段階に移っていく場所。2歳児さんだったかと思います。

上から握るスプーンと、下から支えるスプーン。何歳になったらどれ、ではなく、今できることに、個々に合わせていくそうです。5歳児さんでも、自分が必要だと思えば自分に使いやすいものを選べます。

ちょうど食べ終えた5歳児の女の子が、ひとり静かに「ごちそうさまでした」と手を合わせ、決まった場所に片付けをしていました。ご一緒に!「いただきます!」「ごちそうさま!」より、心がこもっているように感じました。きっと、乳児さんのときから毎日毎日声をかけてもらって、やがて自分で自然に出てくるようになったのですね。

食事の場面だけでなく、排泄、遊び、一日の全てに0歳児さんからの積み重ねがあることに気づきました。

遊ぶ環境

最初に入ったのは2歳児さんのお部屋です。その日外は土砂降りで、園児さんはみんなお部屋で遊んでいました。お天気が良ければ、外で遊ぶ人、中で遊ぶ人と散って、もっと密感はないとこのことです。20人を超える2歳児さんがひとつのお部屋で遊んでいましたが、穏やかな雰囲気でした。先生の声は聞こえてきません。コーナーができて、それぞれのコーナーに適正な人数と保育士さんがいらして、関わりを受けながら自分の好きな遊びをゆったりと楽しんでいました。これは0歳児さんも1歳児さんも同じ。0歳児さんは生活リズムの差が大きいので、眠くなった方、食べたくなった方、遊びたい方のために、もっと細かい配慮がありました。

幼児クラスさんは、3歳児さんのお部屋がひとつ、4歳児さんと5歳児さんが一緒のお部屋でひとつ。ロフトは2つの境目がなくつながっています。

障子戸の小さな和室、階段下の天井の低いところ、広いロフト。これは!楽しい遊びがどんどん引き出される魅力的な空間に違いありません。何もなくても子どもは遊びますが、何かあればもっと遊びますよね。どこで遊んでも良いのです。

この日、広いスペースはそれぞれの遊びのコーナーができており、ブロック、製作、おままごと、構成遊びなど、種類豊富な遊びにそれぞれが取り組んでいました。続きをやりに戻ってくる意思がある場合や、もう片付けるというルールを子どもたちみんなが理解しており、誰が片付けた、片付けない、壊した、仲間に入れてもらえないといったようなトラブルが起きないようになっています。怒りたくなる前に原因が取り除かれている、とのこと。

ケンカをしながら育つという考え方は、それはもちろんそうなのですが、みんながルールを知っていて、それに合わないときにはルールの確認を元にきちんと話し合うという、社会で一緒に過ごすためのあり方をサポートできるのはすごいことだと思います。

開放感のあるお部屋は、どのようにも使えるように中心は広く取って柔軟性を保っています。廊下でも、ロフトでも、ホールでも、「どのようにも使えるように」はキーワードのように何度も聞かせていただきました。

使い方が決まってしまうなんて、子どものいる空間にはもったいないことだと思います。どのようにも使えるからアイデアは湧くのですよね。

大人も大切

保育士さんには、子どもやお家の方と向き合うことの他にもたくさんお仕事があります。たとえば、つくるものとか、書くものとか、練習するものとか、勉強することとか。そういったことは、専用の場所で集中できるように。休憩するときは仕事のことが気にならないように。大人が心地よく過ごすことは、子どもが心地よく過ごすためにもとても大切なこととしていることが伝わってきました。

お家の方や子どもがいないところで、ミシンを出しっぱなしにしておけて、作りかけのものも広げたままにしておける専用の場所。しかもそれは休憩室ではない、休憩のときは仕事が目に入らない場所。ピアノの練習もできちゃう。ストレス減ると思います。

より快適に過ごすために

あそこにも、ここにも、スムーズに一日が流れるための細かい工夫がありました。トイレへの出入り、お外への出入り、お着替えやお道具の置き場所、おもちゃを片付ける場所。外遊びの最中に「おしっこ!」ってなったら、いろいろ脱いで履き替えてなおトイレまで遠いより、外のお靴をちょっと脱いだらすぐトイレに駆け込めるほうがラクに決まってます。押し入れにしまい込んだおもちゃはもう出てこないけど、すぐ手の届くところに大きく開く戸棚があれば頻繁に入れ替えできますね。そんなことです。

色は大切な要素

窓の柵の色と間隔を何度も手直しして決められたこと。カーテンのオーダーし直しのこと。ロッカーの内側の色のこと。床は木材を全部並べて赤ちゃんのお部屋は白い部分が多いように、ホールは濃い部分がたくさん入ってきても良しとされたこと。などなど、細部のエピソードも盛りだくさんでとてもおもしろいものでした。

ピラミーデ

森之宮保育園さんは、長くピラミーデを取り入れ子どもと育ち総合研究所さんの研修を続けていらっしゃるとのことでした。

モンテッソーリなら教具とお仕事、シュタイナーならぬらし絵やライゲンといったように、教育メソッドで目立つのは「何をやっているか」具体的なことで、ピラミーデならプロジェクトでしょうか。でも、本当は「なんのためにそれをやるの?」ということをしっかりさせないといけないのだということをこの見学で思いました。

聞かなくてもわかる、言われなくてもわかるということは、なんと自由で便利なことなのだろうと、子どもさんたちを見ていて感じました。ピラミーデで育まれるのはこの自由と主体性なのでしょうか。

ロフトは、白いロープがかかっているときは登れないんだよ、ということ、ひと目で理解できます。

好きに出入りして良い障子戸の紙にまだ穴があいたことがないそうです。園長先生は穴が開く日を楽しみにしておられましたが。ロフトの隙間からものが落ちることもないそうです。発達に特性があると診断された方も一緒ですが、言われなければわかりません。特性ってなんだろうな、と思ってしまいました。

どんなおもちゃがあって、棚はどのように配置されて、今テーマこんなことで、先生はどう関わって、という見学の経験が多かったですが、森之宮保育園さんでは、ひとりひとりの人が人として尊重されて、どう心地よく過ごすか、育つか、そこに視点をいただきました。その思いが建物によってぐっと具体化することも実感しました。

大変良い勉強をさせていただきました。ありがとうございました。